資産管理コラム

iDeCoは資産形成のベースになる制度、つみたてNISAを併用した資産形成プランを考える

2019/05/20 14:33

 改正確定拠出年金法(改正DC法)の再改正に向けた議論が社会保障審議会(企業年金・個人年金部会)で進んでいる。2017年1月にiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入対象者の範囲が公務員や専業主婦(夫)らにまで広がり、ほぼ全ての国民が活用できる制度に改正されたばかりだが、2016年の改正法制定時に「5年で見直す」という規定があったこともあり、2021年改正に向けて、より使いやすい制度をめざした議論になっている。iDeCoについては金融審議会(市場ワーキング・グループ)でもしばしば取り上げられ、国民の資産形成を促す重要なツールとしての位置づけが明確になってきている。社会保障審議会等での議論を踏まえ、「リタイヤ後(働かない毎日)の生活」を現実的に展望してみたい。

DC法の改正議論は、より大きな拠出を、より長く続けられるように

 4月22日に開催された第4回企業年金・個人年金部会では、制度改正に向けた論点を整理し、制度改正のポイントについて(1)拠出時・給付時の仕組み、(2)企業年金の普及・拡大、(3)個人の自助努力を支援する環境の整備、(4)企業年金のガバナンスと資産運用――という4つの柱をたてた。iDeCoについての議論は、(3)に集中して行われるが、(1)にも大きなかかわりがある。

 (1)の拠出時・給付時の仕組みでは、現在、60歳までしか拠出できないiDeCoの掛金の拠出を、65歳、または、75歳など伸長が必要という意見が強い。厚生年金の受給開始が65歳になる中、企業では定年延長が図られ、多くの人が60歳以降も働き続けているという現実がある。従って、働いている間は、掛金を拠出し続けてリタイヤ後の資金を少しでも手厚くすべきという。

 また、iDeCoの拠出限度額は引上げを検討すべきという意見が強い。たとえば、公務員の場合は、現在は毎月1.2万円(年間14.4万円)が上限になっているが、これを20年間続けても元本は288万円にしかならない。これでは老後の生活資金の貯えとして金額が小さすぎるのではないかという見方だ。企業年金のない企業の従業員は、月額2.3万円(年27.6万円)だが、これは企業型DCの上限5.5万円と比較して少なすぎると問題視されている。

 さらに、給付については、現在はほとんど一時金として受給されているものを、長生きのリスクに備えるためには年金受け取りを選択する人が増えた方がよいという意見が強い。ただ、多くの人が一時金でもらっているのは、受取時の税制優遇を最大限活かすためという側面があるため、税制が変わらないと、制度だけを変更しても行動を変えることにはつながらないかもしれない。

 そして、iDeCo固有の改正ポイントとしては、会社員のiDeCo加入の条件が、企業年金の有無などの勤め先の制度によって、細かく拠出限度額が分かれていることを、もっとシンプルに、誰でもiDeCoに加入できるようにすべきだという意見が強い。また、企業型DCのマッチング拠出は、現在、企業側の拠出額を超えて拠出することはできない決まりだが、この規定を廃止してもっと従業員のマッチング拠出額を拡大すべきという意見がある。

iDeCoの拡充の背景にある社会的な課題

 このように、制度改定の議論は、「より多くの人に」、「より長い期間にわたって積み立てができるよう」、「より大きな金額が拠出できるよう」ということを促す方向にある。現役時代にせっせと老後資金を積み立てて、老後の生活の心配を小さくしようという意図だ。

 この制度改定議論の方向性を裏返して見ると、公的年金の受給額だけでは、現在でも老後生活を支えるには不十分であり、かつ、今後は公的年金の受給額が実質的に減ってくるという見通しがある。

 現在の高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみ)の家計の収支は、実収入が20万9198円に対し、実支出が26万3718円(総務省「家計調査」)。この差額である5万4520円を貯蓄等の取り崩しで生活している。現在のところ、高齢夫婦無職世帯の平均貯蓄額は2484万円であるため、この貯蓄を単純に取り崩す生活をしても約38年間を賄える計算となり、生活がすぐに破たんするような心配はない。

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 ただ、公的年金の支給額が減額され、毎月の不足額が現在よりも大きくなったらどうだろう。あるいは、今後、インフレが進み、かつ、消費増税などによって支出額が今より一段と大きくなったら? たちまち、現在の貯蓄額の備えでは足りなくなってしまうのではないだろうか。

 また、現実をみれば、貯蓄ができない世帯が増えている。2人以上世帯で世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄現在高(総務省「家計調査」)で、100万円未満の世帯は2002年に4.4%だったが、2017年には6.4%に拡大している。1000万円未満の世帯は2017年に35.8%なので、3世帯に1世帯は貯蓄額が1000万円に届かない世帯になっている。

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 さらに、現在の高齢世帯の貯蓄額は、多くの場合は、退職時の退職給付(退職金+企業年金)をまとめてもらって作った貯蓄だとみられているが、この企業が用意する退職給付の金額は徐々に少なくなっている。退職給付のある企業で大卒・大学院卒で35年以上勤務した定年退職者の退職給付水準は、2008年に2491万円だったが、2018年には1997万円になった(厚生労働省「就労条件総合調査」)。そして、転職する人が増える中で、退職時の在職年数が短い人も増えている。非正規雇用で、そもそも企業年金や退職金の対象ではない働き方をしている人もいる。

働けるうちに将来を見据えた資産形成を

 一方、貯蓄を取り崩すのではなく、高齢になっても働き続けて収入を得るという方法もある。現在の60歳以上の男女を対象としたアンケートでも約8割の人は65歳以上でも働いていたいと回答し、働けるうちはいつまでも働きたいと考えている人が、全体の42%を占めるメジャーな意見になっている(内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査」)。

 ただ、「働きたい」と「働くことができる」は別だ。AI(人工知能)の進化や自動化の進展によって、誰にでもできる(未経験者でもできる)単純労働は機械が代わって働くようになるだろう。「働けるうちに働いて将来のための貯蓄を増やす」というのは、現実的な対処法といえる。

 金融審議会で、事務局である金融庁が示した家計の資産形成の「理想的なケース」には、現在の国が考えている制度設計のゴールがうかがえるようだ。(「理想的なケース」は、運用の環境が順風で年率平均2%の運用ができた場合。金融庁の資料では、資金を引き出す間際に金融危機が生じたケース、積み立て開始が遅れたケースなどのケーススタディがある)

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 就職してすぐ、23歳から「つみたてNISA」を毎月2万円(年24万円)で始め、31歳になって給与も上がってゆとりがでたら「iDeCo」の併用を開始。iDeCoは毎月1.2万円(年14.4万円)。35歳で住宅の頭金としてつみたてNISAを全額解約(359万円引出し)。つまりは、31歳から35歳までは、毎月3.2万円を積み立てている計算。

 そして、35歳から5年間は住宅ローンの返済のために、つみたてNISAを休止してiDeCoのみを継続。41歳からつみたてNISAを再開し、ここからはフルで枠(年間40万円)を使い切り、毎月3.3万円を積み立て。iDeCoと合わせて毎月5万円を積み立てる計算だ。その結果、65歳時には1933万円の資産ができている。この計算は、年利2%で運用することが条件になっている。iDeCoは元本確保型ではなく、投資信託で運用しなければならない。ゼロ金利で積み立てると、65歳時点での貯蓄額は1494万円でしかなく、物足りないのではないだろうか。

 このような自助努力があると、積み立て金額さえ確保できれば働き方は自由だ。退職金の金額に固執することなく転職することもできる。最終的に何らかの退職給付があった場合は、貯蓄のプラスαとして考えればよい。65歳の時点で住宅ローンが残っていれば、その資金で完済することもできる。

 制度の使い方としては、60歳まで引き出しができないiDeCoを資産形成のベースとして考え、いつでも引き出せるNISAを上乗せしてライフイベントに備えるという考え方だ。iDeCoに加えて企業型DCがあれば、ベース資金の積み上がり方はもっと厚みがあることになる。iDeCoをスタートし、その積立残高が増えるほどに、老後の安心感が高まってくる。

 令和の時代を迎え、将来に向けた資産形成は順調だろうか。また、少しでも将来に向けた資産形成が始められないかということを今一度見直しておきたい。時代が代わるように、時間は着実に進んでいくのだから。

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