資産管理コラム

iDeCoだけじゃない老後の生活手段の確保法、老後の生活設計は柔軟に

2017/11/01 08:36

 iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)の加入対象者が今年1月に大幅に拡大され、来年1月からは「つみたてNISA(ニーサ、少額投資非課税制度)」も始まります。世の中をあげての「資産形成のススメ」です。なぜなら、公的年金がこの先も継続するかどうか不安があり、継続しても年金額が今よりも少なくなるだろうと言われているからです。だからと言って、全ての人が日常の楽しみを我慢して、年金生活のために、ひたすら貯蓄に励まなければならないわけではないと思います。老後の生活資金の準備について、現実的に柔軟に考えましょう。

「高齢無職世帯」の家計は毎月5万円以上が赤字

 老後の生活資金を「自助努力で準備する」ことの必要性を説明する際に良く使われるのが、「家計調査」による高齢者世帯の収支です。総務省が調査した2016年の家計調査で、「高齢夫婦(夫が65歳以上、妻60歳以上)無職世帯」の月間の支出は26万7,546円。対して収入は21万2,835円(うち、年金など社会保障給付が19万3,051円)でした。毎月5万4,711円の赤字になっていて、この分は、貯蓄を取り崩して補てんしています。

 現在でも、年金暮らしの高齢者がもらっている年金だけでは生活費が不足し、毎月5万以上の貯蓄を取り崩して生活の足しにしています。高齢になれば、働くことにも限界があるため、不足する生活費を補うのは、貯蓄だけが頼りになります。まして、今後、国の財政が苦しくなり、年金の支給額が一段と絞り込まれたり、あるいは、医療費や介護費用等の自己負担率が引き上げられたりすることも考えられます。少しでも多くの貯蓄を残しておいた方が良いということになっています。

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平均余命から考える老後に必要な生活資金

 そこで、生活費の補てんのために、毎月6万円を貯蓄から取り崩して生活することを考えてみます。65歳でリタイヤして年金生活に入るとして、65歳男性の平均余命は19.55年。65歳女性は24.38年です(いずれも、2016年簡易生命表)。男性はリタイヤ後に20年間、女性は25年間は存命であるというのが、平均値です。毎月6万円を取り崩すのであれば、25年間で1,800万円(6万円×12カ月×25年間)が必要になります。一気に1,800万円を用意することは難しいので、若いうちからコツコツと準備しましょうといわれます。

 1,800万円を貯めようと考えれば、毎月5万円を30年間積み立てれば完了します。30代~40代で子育てをしている世帯だと、老後のためだけに毎月5万円を積み立てるのはハードルが高いと感じるかもしれません。住宅ローンがあったり、また、子どもの学費のことも考えると、首も回らないと感じるくらいに窮屈だと感じるかもしれません。

現預金の「期待利回り」がマイナスに沈む現実

 iDeCoや「つみたてNISA」で投資商品による運用を選択した場合は、1,800万円を作ることの毎月の負担感は変わってきます。たとえば、毎月3万円を30年間積み立てて、期待利回り年3.2%の商品で運用ができたら、1,809万円が作れます。期待利回り年5.5%の商品があれば、毎月の積立額は2万円でも30年間で1,827万円になります。これらは、購入時手数料が無料で、かつ、収益に対する20%税を非課税で考えた場合ですから、iDeCoかNISAといった収益非課税の口座での運用を前提にしています。少額でも若いうちから積立投資を始めることが重要です。

 ここで年率3%~5%台の期待利回りがある資産は、外国株式など比較的高いリスクを取った運用商品になります。2016年度(平成28年度)のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の業務概況書から、投資運用資産の期待リターンと標準偏差(リスク)の数値を見ると、外国株式が年率4.8%、国内株式が2.5%などになっています。日銀のマイナス金利政策の影響もあって、短期資産の期待リターンがマイナス1.0%と水面下に沈んでしまっている厳しい運用環境にあり、期待リターンの水準が全般に落ち込んでいます(期待リターンは「市場基準ケース」。現在の超長期債の利回り等を参考に期待利回り水準を予測)。株式は標準偏差が25%(プラスにもマイナスにも25%変動する)を超える高いリスクを想定しなければなりません。

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投資商品の「不確実性」が嫌いな場合はどうする?

 運用には、必ず「リスク」、すなわち、「不確実性」が伴います。期待リターンが年率4.8%の外国株式に投資すると、年率プラスマイナス26.21%のブレを覚悟しなければなりません。あるタイミングでは、運用成績が前年同月の水準と比較してマイナスになっているということもあり得るのです。「リスクをとった運用はしたくない」という人が少なくないのは、もっともなことです。

 ところが、ノーリスクで運用しようと考えると、期待リターンはマイナスです。日本国債など国内債券で運用しようと考えてもマイナスのリターンしか期待できません。お金を現預金で積み立てていくと、資産が目減りすることになってしまいます。将来のために資産形成することがバカらしくさえ感じられてしまうことでしょう。

1つの会社で定年まで勤める人はNISAで資金管理

 老後生活に必要な貯蓄が1,800万円だとすると、企業年金のある会社員、また、公務員の方々は、それほど恐れる金額ではないといえます。人事院が調査した「退職金および企業年金の実態調査」(2017年4月発表)によると、民間企業の定年退職時には平均2,459万円の退職給付が用意されています(従業員50人以上の民間企業から層化無作為抽出法によって抽出)。公務員も同等です。学校を卒業して就業し、定年まで無事に勤めることを前提にすれば、老後のための資産形成は不要ということもできます。定年を迎えるまで、住宅ローンなどの借金を返済し終えて、退職金をまるまる老後の生活資金に充てられるように家計の管理ができれば十分です。この場合には、余裕資金はNISAで運用し、必要に応じて取り崩して使うなど、資金の過不足を調整するようにしましょう。

 一方、人生には「転職」もあります。厚労省の雇用動向調査によると、平成28年度の転職率は9.9%で、1年間に10人に1人は転職をしている計算です。あるいは、企業の倒産、リストラなど、会社都合で転職を余儀なくされる場合もあるでしょう。転職した時には、2,400万円の退職金は諦めなければなりません。iDeCoを活用した老後の資産形成を考えましょう。また、就職した企業に企業年金制度がない場合もiDeCoの活用は重要です。退職時に会社から得られる資金の金額を把握して、不足分は自助努力で積み立てましょう。老後の資金確保のためだけに使えるiDeCoは、掛金の全額所得控除のメリットを得つつ、着実に老後資金準備ができる有力な手段になります。

 しかし、iDeCoもNISAも不確実な株式等で運用することに変りはありません。毎月の生活費を削って積立を続けたとしても、もし、退職時にリーマンショック級の大きな市場の下落があれば、老後の生活設計が吹っ飛んでしまいます。

誰でもできる! 老後の年金を着実に増やす方法

 不確実な投資に頼らなくても、確実に老後資金を増やす方法があります。年金を受け取る時期を、1年でも先に繰り下げるのです。65歳で公的年金(国民年金や厚生年金)の受給を開始するのを1年間先送りして、66歳から受け取ると年金額が8.4%増額されます。66歳以降は、1カ月繰下げるごとに0.7%増額され、5年繰り下げて70歳以降に年金を受け取るようにすると42%増額されるのです。この増額された支給額は生涯継続します。先に上げた、高齢無職世帯の年金の受給額19万3,051円が42%増額されると、受給額は月額で27万4,132円になります。月間に8万1,081円の増額です。生活費が十分に賄えます。

 65歳から5年間の生活費を貯めておくことができれば、70歳以降の生活費に困ることがなくなるのです。夫婦2人の毎月の生活費が26.75万円ですので、5年分の生活費は1,605万円になります。このうち毎月5万円分はアルバイト等で働いて得るとすれば、1カ月当たり21.75万円となり、1,305万円を用意することで足ります。夫婦2人でパートをして毎月10万円の所得があれば、1,005万円で5年間の生活が賄えます。70歳までは、何らかの形で働いて少しでも収入を得ようと考えれば、老後の生活費を確保するための資産形成は、それほど窮屈に考える必要はなくなるのではないでしょうか。

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老後生活の安心の法則:年金+貯蓄+仕事

 たとえば、企業年金等がない企業に勤めている場合、自助努力で老後の生活資金を作ります。iDeCoで毎月1万円を積み立て、株式を中心にした運用によって年率3~5%程度の期待リターンが得られるのであれば、30年間で500万円~800万円の資金が老後に準備できます。そして、子どもが独立した50代からは、掛金を増額して65歳までに1,000万円以上の資金が残るように調整しましょう。結果的に、より多くの資金を残すことができれば、完全に仕事を辞める年齢を早めることもできます。あるいは、65歳以降に働いて得る収入が少なくても生活に困らなくなります。

 もちろん、65歳を超えてからの就労は、40代のようにはできません。視力が落ちたり、足腰が痛かったり、何らかの身体的な不調を抱えることも十分にあり得ます。65歳を超えて働くには、何か特技があった方が就労には有利でしょう。体調管理や高齢になっても活かせる技能の取得は、60歳になってから始めても身に付くものではないでしょう。40代、50代のうちから、65歳を超えても働くことを視野に入れておくことが重要です。幸いにして体調管理も技能取得も、現役時代に意識して取り組むことがキャリア形成にマイナスになることではありません。「人生100年時代」といわれる今、70歳まで働いていることをイメージすることは必要なことでもあります。

 公的年金制度は簡単に崩壊する制度ではありません。消費税率8%の現在でも、現役時代の収入の50%を保証するという公的年金制度は維持が可能です。国庫から年金の支払いに充てている資金は年間12兆円程度(平成27年度)になっています。消費税率1%の増税で2兆円の税収増になるといわれていますので、よほど大きな社会制度改革が行われない限り、現状の年金制度は維持できる見通しです。当面は、現行の年金制度を前提として老後の生活設計について無理のない計画を立てていきたいところです。自身が65歳以降も働き続けることも選択肢とすれば、その働き方の多様さも含めていろいろな老後の生活資金確保策が立案できると思います。

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