資産管理コラム

非課税制度の運用比較、「つみたてNISA」は低コストだがiDeCoは運用の自由度で勝る

2017/09/07 14:11

 2018年1月スタートの「つみたてNISA」は、この10月から口座開設の申し込み受付が始まるとあって、金融機関ではその準備で忙しくなっています。金融庁が「貯蓄から資産形成へ」の重要なツールと位置付け、制度の普及に合わせて日本の投信市場そのものに大きな変革を目論む重要なプロジェクトです。一足早く始まったiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)と比較しても、「長期投資に資する運用コストの低廉化」については徹底しています。「つみたてNISA」とiDeCoについて、その対象商品を比較して、「どっちが有利?」ということについて考えてみます。

 「つみたてNISA」とは、積立投資で行う少額投資非課税制度(NISA)です。1年間で40万円までの枠が使えます。NISA(投資限度額は年間120万円)との併用はできませんが、非課税期間が20年間と大幅に長期化します。毎月1000円程度(SBI証券などネット証券では毎月100円でも)から、コツコツと投信を積み立てて、長期で大きな資産を作ってもらおうという制度になっています。投資商品は、金融庁が認めた投資信託(上場している投資信託であるETFを含む)のみです。

運用低コストでは「つみたてNISA」が圧倒的

 金融庁は「つみたてNISA」の対象商品に厳しい条件を設けています。まずは、長期投資にふさわしい商品として「信託期間は無期限、または、20年以上」「為替ヘッジ目的以外のデリバティブ取引の禁止」「毎月分配型は不可」の3点。そして、「販売手数料無料(ノーロード)」「信託報酬の上限設定(国内インデックスファンドは年0.5%以下、海外インデックスファンドは年0.75%以下など)」などです。運用コストには徹底してこだわり、「最終投資家の利益を最優先とした制度にする」ことを強調しています。その結果、以下の金融庁の発表の通りに、「つみたてNISA」の対象商品になりうる投信の信託報酬は相当低くなっています。


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 低コストの長期の資産形成手段として最も有力だったのは確定拠出年金(DC)でした。企業年金としてまとまった資金を長期に預かれることもあり、運用会社はDC制度向けに信託報酬を大幅に引き下げた「DC専用ファンド」を提供しています。個人型DCであるiDeCoの運用商品の中心も「DC専用ファンド」です。iDeCo採用商品も基本的にはノーロードです(一部に販売手数料がかかる商品があります)。しかも低コストですから、この点では、「つみたてNISA」もiDeCoも同じような運用商品を対象としています。

 「つみたてNISA」の対象商品になるためには、金融庁に届け出をして承認を得ることが必要です。現在、「DC専用ファンド」を「つみたてNISA」用に「公募投信化」する動きが活発になっています。一方、今年1月から加入対象者が大幅に広がったiDeCoに、公募投信として設定されていた低信託報酬のインデックスファンドシリーズ(三菱UFJ国際投信の「eMAXIS」シリーズやアセットマネジメントOneの「たわらノーロード」シリーズなど)が相次いで採用されました。「つみたてNISA」とiDeCoの対象商品が混ざり合うようなことが起きています。

iDeCoに比べ、「つみたてNISA」は商品の種類が限定的

 実際にiDeCoと「つみたてNISA」の対象商品について比較したのが以下の表です。信託報酬の水準で比べれば、「つみたてNISA」の方が低くなっています。DC専用ファンドのインデックスファンド(平均0.39%)は公募のインデックスファンド(同0.64%)と比較して低くなっていますが、「つみたてNISA」では具体的な上限金利を設けたことで一段と低くなっています(「つみたてNISA」のデータは金融庁の発表による。iDeCoのデータはモーニングスター調べ)。また、主に「つみたてNISA」の対象ファンドとして届け出ることを目的としてインデックスファンドを中心に、信託報酬の引下げが相次いでいます。iDeCoには依然として10年以上前に設定された古いファンドが残っていて、この古いファンドが信託報酬の水準を引き上げているという側面もあります。iDeCo採用ファンドの信託報酬引き下げも静かに進んでいます。


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 一方、運用商品の投資対象の多様性では、iDeCoの方が幅広くなっています。そもそも「つみたてNISA」は、その対象商品は株式への投資がメインに位置付けられ、国債など公社債のみに投資するファンドは対象に入っていません。バランス型を示す「資産複合型」で株式と組み合わせることで、債券等への投資が可能になっています。

 加えて、「つみたてNISA」では、アクティブファンドは意図的に排除されました。「客観的にみて、運用コスト控除後の運用成績でインデックスを上回るアクティブファンドが少ない。その少ないファンドを見極めることは難しい」というのが排除の理由です。完全にアクティブファンドを排除したわけではありませんが、「残高50億円以上、かつ、設定来5年以上、かつ、3分の2の期間で資金流入超」など厳しい注文を付けています。

 この点、iDeCoの採用商品には制限がありません。プランを設計する運営管理機関(銀行や証券会社など)が、それぞれに考えて「ふさわしい」と判断できる商品を自由に選ぶことができます。当然、長期の運用手段であるiDeCoの運用商品としてラインナップするのですから、信託報酬が低い、運用成績が安定して優れているなどの指標で選定していることと推察されます。

現役世代にはiDeCoが第一選択肢、「つみたてNISA」で手軽に投資体験も

 さて、iDeCoと「つみたてNISA」について、運用商品を軸に比較しました。コストだけをみると、「つみたてNISA」の方が優位にあるようです。選択の幅広さの面ではiDeCoということもできるでしょう。ただ、ここで比較したのは、あくまでも対象商品のラインナップです。実際には、iDeCoが10~30銘柄程度の商品ラインナップで提供されているように、「つみたてNISA」においても各金融機関で取扱い商品をセレクトして提供します。多くの金融機関で10程度の品揃えでスタートするとみられています。

 また、資産形成手段として考えた場合、iDeCoには掛金の全額所得控除の仕組みがあることは大きなメリットです。課税所得195万円~330万円の人で掛金の20%相当の税金が戻る計算ですから、まず第一の選択肢になるでしょう。そして、積立商品の変更や、資産内容の見直しなど、自由に運用商品を入れ替えることもできます。資産運用についての理解が進むほどに、iDeCoの運用に関する自由さはメリットとして感じられるでしょう。

 「つみたてNISA」は、iDeCoにある所得控除のメリットがないものの、iDeCoにある口座管理料がありません。iDeCoの場合は、年間2,004円(税込)は必ず負担しなければなりません。毎月1万円(年間12万円)の掛金の場合、1年で掛金総額の1.67%を負担する計算です。口座管理手数料を月間300円負担する金融機関の場合、毎月1万円の掛金では4.9%相当の手数料負担になります。iDeCoでは販売手数料が無料のはずが、実は5%近くもの手数料が取られていることになります。しかも、投資対象が預貯金でも手数料が取られることは同じです。もっとも、12万円に対し20%の24,000円の税金が還付されるのであれば、6,000円程度の負担は受け入れられるという考えもできます。「つみたてNISA」には、この口座管理手数料がありません。しかも、運用商品の信託報酬が安いとなれば、運用に関する負担はぐんと低くなります。

 「つみたてNISA」はiDeCoが60歳になるまで換金できないことと比べ、いつでも換金できる手軽さがあります。また、iDeCoが5,000円以上1,000円単位であることと比較して、「つみたてNISA」は1,000円以上1円単位(金融機関によって異なります)など、投資可能単位の面でも手軽に始められます。初めて投資する場合は、少額で始められ、口座管理手数料もかからない「つみたてNISA」が入口としては使いやすいかもしれません。

 ただ、「つみたてNISA」では、一度売却した資産の再投資はできません。売却すると資金はNISA口座の外へ出てしまい、非課税口座に戻せません。iDeCoでできるスイッチング(投資銘柄の入れ替え)などの自由な運用が非課税口座内でできないのです。

 このように「手厚い税制メリット、運用の自由度」でiDeCo、「手軽さ、運用の低コスト」で「つみたてNISA」という色分けができそうです。それぞれの特性を理解して使い分けるようにしましょう。両方を同時に使うこともできます。公務員の場合は、iDeCoの限度額は月間1.2万円ですが、「つみたてNISA」では月間3.3万円の投資枠が使えます。併用することで、月間4.5万円を非課税で積み立てていくことができるのです。iDeCoの限度額の低さに十分な資産作りができないと感じた人には、「つみたてNISA」の併用でより大きな資産作りが可能になります。