資産管理コラム

年金運用の専門家に学ぶiDeCoの資産運用、長期分散・積立投資の底力

2017/08/30 15:25

 iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)では、元本確保型商品ではなく投信を積極的に使いたいといわれます。元本確保型商品は利回りがゼロ%台で資産が増えないこと。また、iDeCoの定額積立投資で得られるドルコスト平均法の効果(価格が安くなった時に多くの量を購入して平均購入コストを引き下げる効果)は一定の価格変動があった方が効果的などの理由があげられます。ただ、投信は多くの種類があり、価格が毎日変わるので、どれを選べばよいのか分からないという方が多いと思います。まして、「投資には分散が大事だ」と聞くと、ますます「どうすれば良いのか分からない」という気持ちになるでしょう。年金の運用として世界最大規模の運用専門機関であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用実績から、具体的な分散投資について考えてみましょう。

GPIFの累積収益額は53.4兆円、年率2.53%を実現したポートフォリオの中味は?

 GPIFは、厚生年金や国民年金の年金積立金を管理・運用する専門の機関です。2001年に法律改正によって、それまで公的年金の運用を担ってきた年金福祉事業団が廃止され、厚生労働省が指導・監督する年金資金運用基金を設立されたことに始まります。2006年により専門性を高めた独立法人GPIFに改組された。運用については厚生労働大臣が示す「中期目標」を達成するために基本ポートフォリオを含む「中期計画」を策定し、その計画に基づいて実行されています。GPIFの運用の実際については、公式ホームページ等を通じて広く公開されています。

 GPIFの運用については「株価下落によって何兆円の損失」などと損失がニュースとして大きく扱われることが多いのですが、実はトータルでみると大きな収益を上げています。2001年度以来の累積収益額は53.4兆円となり、名目運用利回りは年率2.53%です。下記のグラフに年度ごとの収益率の推移を示しますが、毎年、必ずプラスのリターンをあげているわけではないことが見て取れます。それでも過去17年間の運用をトータルすると、プラスの利益をあげていることが重要です。


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 また、グラフで注目していただきたいのは、年間の運用利回りがマイナスになった時でも最大でマイナス7.61%にとどまっていることです。リーマンショック時の2007年度-2008年度は、マイナス4.69%、マイナス7.61%ですが、この間(2007年-2008年の年次)の資産別インデックスのリターンは、国内株式がマイナス12.2%、マイナス41.8%、先進国株式がプラス11.3%、マイナス41.6%でした。株式への投資では年間40%以上も下落することがあります。さらに、GPIFの運用成績では、マイナス方向への落ち込みに比べて、プラス方向への山が高くなっていることもみてとれます。マイナス方向への落ち込みが抑えられているからこそ、現在までの累積収益額が大きなプラスになっているのでしょう。

 このGPIFの運用ポートフォリオの推移は、以下の通りです。2001年から国内債券が約7割で、内外の株式と外国債券が合わせて約3割だった比率が、徐々に国内債券の比率が小さくなって、現在は国内債券が約3割、国内外の株式が約5割という比率になっています。現在の基本ポートフォリオは、国内債券35%(±10%)、国内株式25%(±9%)、外国債券15%(±4%)、外国株式25%(±8%)になっています。GPIFではプライベートエクイティ(未公開株)やインフラ投資などのオルタナティブ運用も取り入れています。また、伝統4資産(国内外の株式・債券)への投資もアクティブファンドを一部(全体の2割程度)組み入れています。単純に配分比率だけを運用の参考にして同等の運用成績をあげられるとはいえません。


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 また、GPIFの基本ポートフォリオは、年金制度からの要請を受けて、「長期的な積立金の下方リスクを最小化することに留意した上で、実質的に賃金上昇率プラス1.7%」を目標にしています。ポートフォリオの構築に当たっては、2038年度の資産額について試行回数1万回のシミュレーションを実施するなど、非常に長い期間の運用を前提として資産配分を決めていることも特徴です。

GPIFに学ぶ分散・長期投資

 GPIFの運用が、私たちの運用に参考になる部分は、基本的な運用の姿勢として「長期的な運用においては、短期的な市場の動向により資産構成割合を変更するよりも、基本となる資産構成割合を決めて長期間維持していく方が、効率的で良い結果をもたらすことが知られています」という態度で運用していることです。私たち自身が、様々な前提条件を組み替えて1万回のシミュレーションを行うようなことはできないとしても、広く世界に分散投資をしたポートフォリオを作って「長期間維持していく」ことはできます。4資産の配分比率を自分で決めることが難しい場合は、バランスファンドを選んで投資を続けるという方法もあります。また、近年のバランスファンドの中には、下方リスクを抑制する仕組みを取り入れた「リスクコントロール型」と呼ばれるファンドもあり、iDeCoでの採用が進んでいます。

 iDeCoの運用は、長期間にわたって運用を継続することがポイントです。iDeCoは掛金の全額所得控除や運用益非課税などのメリットがある半面、口座管理手数料が最低でも年間2,004円(税込)かかることがデメリットといわれます。しかし、運用を継続して資産残高が100万円になれば、2,004円の口座管理手数料は資産全体の0.20%に過ぎません。資産が300万円になれば0.07%です。iDeCo向けの「DC専用ファンド」の信託報酬の水準は、公募のパッシブファンドが平均0.64%のところ、DC専用パッシブファンドは平均0.39%と0.25%低くなっています(2017年7月末現在)。運用資産残高が増えるほどに、iDeCoの効率運用のメリットは大きくなっていきます。運用期間をできるだけ長くして(すなわち、できるだけ若いうちから加入し)、掛金の積立期間を長く継続するようにしましょう。

 GPIFの年次の成績を見てもわかるとおり、どんなに優れた運用のプロが考えても、毎年プラスの成績を上げ続けるような運用はできません。市場は拡大したり・縮小したり(上がったり・下がったり)を繰り返します。その変化に一喜一憂することなく、世界に広く分散投資したポートフォリオを、コツコツと買い続けることが重要です。