資産管理コラム

iDeCo口座管理手数料の深層、手数料水準にみる金融機関の本気度

2016/10/21 15:47

「老後の安心のため、自分で用意する年金」が、iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)だ。年金の用意は、毎月の積み立てで行うため、50代で始めるよりも、20代で始めた方が少ない負担で多くの年金が準備できる。そして、60歳までの30年以上(30代だと20年以上)の長い期間を考えた場合、その積立口座を開設・維持管理するための費用は安い方がメリットは大きい。では、実際には、どこまで安くできるのだろうか?




 iDeCoでかかる費用は2段階。ひとつは、口座を開設した金融機関が徴収する「口座管理手数料」。もう一つは、iDeCoの資産を実際に運用するための商品にかかる「運用管理手数料」だ。改正確定拠出年金法によってiDeCoの加入対象者が大幅に拡大することを受けて、iDeCo関連手数料の見直しが進んでいる。手数料の水準を大きく引き下げる他、期間限定のキャンペーンや新たなサービスを付け加えるところも現れている。

「口座管理手数料」無料化が困難な理由

 一方、iDeCoの「口座管理手数料」は、2016年10月以降に急速に新しい考え方が広がり始めている。もとより、iDeCoを提供する金融機関は、銀行、証券、生命保険、損害保険、信用金庫、労働金庫など様々な業態がある。また、メガバンクのような巨大な金融機関から地域金融機関まで規模の差も様々だ。単純な価格水準の高い安いだけではなく、それぞれの特性を活かした付加価値が問われるようになりそうだ。

 たとえば、「口座管理手数料」無料(国民年金基金連合会=月額103円と信託銀行=同64円は別)を打ち出していたのは、昨年までは、SBI証券とスルガ銀行の2社だけだった。今年になって、楽天証券、損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントが名乗りをあげた。


 もっとも、この「口座管理手数料」は2層(プランを提供する金融機関と記録管理業務を行う機関)に分かれているため、同じ無料を打ち出した4社でも、その事情は異なる。記録管理業務を行う機関とは、レコードキーパー(RK)とも呼ばれ、日本ではNRK(日本レコード・キーピング・ネットワーク)とJIS&T(日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー)が大手。それぞれ、金融機関の共同出資で設立された会社だ。RKの主な業務は、加入者ごとに持分の記録・管理や運用指図の取りまとめなど、加入者ごとの資産内容のデータ管理なので、データセンターとして莫大な構築・維持管理費用を必要とする。実は、「口座管理手数料」の過半をRK向けの手数料が占めるということもある。



 したがって、口座管理手数料無料とすると、このRK向けの手数料をプラン提供の金融機関が負担する必要がある。つまり、口座管理手数料を無料にすると、iDeCo口座数が増えるほどにRKへの支払いが増えることになる。無料4社のうち、SBI証券と損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントは、グループ内にRKを持っている。スルガ銀行と楽天証券は外部に流出することになる。


プラン提供金融機関のふところ事情

 実際に、iDeCoプランを提供すると、制度内容についての問い合わせに応える専門の担当者を置く必要がある。専用WEBサイトの構築や説明資料を作成し、電話による問い合わせには基本的にフリーダイヤル(通話料金は金融機関の負担)で受ける。さらに、投資教育の提供も求められるため、プランを維持していくだけでも相応の費用が必要になる。この費用を賄うのが、「口座管理手数料」であり、運用商品の「信託報酬」の一部だ。

 信託報酬について、DC専用ファンドの中で最大ファンドでみると、信託報酬の年0.23%(税別)のうち、プラン提供金融機関に入るのは0.07%(税抜)だ。100万円の残高に対して700円の計算になる。iDeCoは、自営業者の拠出限度額が最も大きくて年間81.6万円に過ぎない。専業主婦(夫)は年27.6万円、公務員は年14.4万円に限られる。運用商品から得られる手数料は、当初は年間で1人当たり100円にも届かないことも想定される。その上で、口座管理手数料でRKに年間で1人あたり数千円の手数料を支払っていては、たちまち大きな赤字が発生することになってしまう。よほど長期の事業計画で取り組まなければ、採算に合わない事業なのだ。


手数料を巡る新しい動きは消費者の心をつかむ?


 このため、iDeCoの口座管理手数料を引き下げることには限界がある。そこで、2016年10月以降に新しく出てきたのが、各社の特性を踏まえた特別メニューの提供だ。たとえば、 みずほ銀行が2017年1月からスタートするiDeCo新プランは、同行との取引内容によって優待割引制度がある。たとえば、掛金の引き落とし口座をみずほ銀行にすれば、月額27円引き下げ、さらに、「SMART FOLIO」を利用登録すれば月額10円を引き下げるという内容になっている。この内容は、「iDeCoセミナーに出席すれば●円割引」など、様々な発展性がある。メガバンクの懐の深いサービスが背景にあればこその取り組みといえる。

 また、日本生命保険が12月1日からスタートする新プランも「加入者向け専用サービス」をつける点でユニークだ。同社は、企業年金制度などを数多く提供する実績があることから、企業を通じて従業員向けに提供する福利厚生サービスを、iDeCo加入者にも付加した。大企業の従業員が利用しているような旅行・宿泊・ショッピング等の優待価格が、iDeCoに加入することで利用できることにメリットを感じる人も少なくないと考えられる。


 このような付加サービスをつけているところは、手数料水準として最低を狙っているわけではない。また、三井住友銀行やりそな銀行のように、全店でiDeCoの制度内容を説明できる体制を整えることを先行した金融機関もある。ネット等で断片的に知識を得て、今一つ納得感を得られなかった人が、制度を体系的に学んだ行員から説明を受けることで、納得感が高まったという声は小さくない。各金融機関の取り組みは、消費者の反応によって、様々に変化していくことが考えられる。消費者は、どの金融機関を選ぶのか? iDeCoを巡る金融機関の競争は始まったばかりだ。